私たちはなぜ、舞台という限られた空間で演じられる物語に心惹かれるのでしょうか。そこには、日常から切り離された美しくも儚い世界があります。しかし、非日常の空間と時間でありながら、表現される感情豊かな心は人間の共通の感覚から生まれます。劇場は、目に見える事象ではない思想と欲望が交差する世界が、かたちとなって現れていく場所であり、観客を惑わせ、魅了していくのです。
「私の劇場」というタイトルは、宇野亜喜良キュレーションとして始まった展覧会が由来となっており、今展ではその流れを継いだ、30余名の作家たちがそれぞれ自分自身の劇場をテーマに、平面・立体作品を通して表現します。
彼らは、キャンバスや支持体空間を舞台に、絵筆や自らの手を使い、頭の中に思い描くイメージを現実へと昇華していきます。そうして物語が生まれ、モチーフが登場人物となり、様々な技法を用いて演出をほどこしていくことで、ステージが出来上がっていきます。全てを作家自身が完成させ、舞台の幕がようやく上げられる瞬間、私達は観客の一員へと変わります。
それぞれの作品はまるで舞台装置のように並び、展開されるリアルな虚構は、非日常のかたちを浮き彫りにします。それは現世を離れた不条理な世界であり、私たちを耽美な幻想劇を観ている感覚へと誘うでしょう。まだ見たことのない、知らない感覚を求めて劇場に行くように、作家たちの様々な視点や技法から捉えられるオリジナリティ溢れた作品から新しい世界観を見つけに、会場へお越しください。